幸せな結婚生活はいつまでも続いてほしいものですが、ケガや病気、事故などで家庭を支えていた方が亡くなってしまうことがあります。
そのときに残された家族が路頭に迷ってしまわないように、公的年金には遺族年金の制度が設けられています。
2024年7月30日開催の第17回社会保障審議会年金部会で、遺族年金の見直しについて、制度の改正案が示され、今後に制度の改正が行われる予定です。
遺族年金の制度が、どのように改正される見込みなのかをファイナンシャルプランナーのSが解説していきます。
今回の改正案の主な内容を順番に解説していきますね
令和6年7月30日時点の厚生労働省の資料もとに作成しているため、実際の改正内容は変更される可能性があります
子のいない配偶者への遺族厚生年金の男女差の解消を目指す
現在の制度では、亡くなった方の子のいない配偶者への遺族厚生年金の給付は、男性と女性で異なる内容となっています。
現行の制度では、女性であっても年齢によって給付に差がある状況です。
今回の改正案では、給付の男女差が段階的に解消することを目指しています。
今回の改正で、遺族厚生年金が改悪されちゃうのかな〜
改悪というよりは、今の社会の状況に合わせた制度の変更を目指しているよ
誤解がないように、一緒に内容を確認していこうね
なお、今回の改正は主に遺族厚生年金に関するものであり、遺族基礎年金は現行のとおりです。
また、20代から50代の子のいる配偶者への遺族厚生年金・遺族基礎年金の給付は現行制度のとおりです。
子のいない30歳未満の妻は影響なし
子のいない30歳未満の妻について、これまでの遺族厚生年金は、5年間だけの有期給付となっています。
今回の改正案では、60歳未満の配偶者の給付を段階的に一律5年間の有期給付とする方向です。
もともと5年間の有期給付となっている、子のいない30歳未満の妻については、制度改正後の給付期間には影響はありません。
30歳未満の女性って、もともと5年間しか遺族厚生年金をもらえなかったんだね〜⁉︎
今回の改正では、もともと5年間の有期給付だった30歳未満の妻には影響がないね
30歳以上60歳未満の妻は段階的に有期給付へ移行
子のいない30歳以上の妻について、これまでの遺族厚生年金制度では、給付期間は無期限となっています。
今回の改正案では、有期給付となる年齢を段階的に引き上げていき、最終的に60歳未満の妻は5年間の有期給付となります。
無期限でもらえてたものが、徐々に5年間の有期給付給付になっちゃうんだね
制度改正前に遺族厚生年金を受給している人は、今までどおり無期限で受給できる方向だから安心してね
ただし、新しい制度が施行される前に遺族厚生年金を受給されている方については、改正後も現行の制度が維持されるので、遺族厚生年金が無期給付されるように配慮される見通しです。
60歳以上の配偶者は変更なし
60歳以上の配偶者については、もともとの制度でも男女ともに無期給付となっていました。
改正案でも60歳以上の配偶者については、遺族厚生年金が無期給付となっています。
これは、現役世代と比べて、60歳以上の就業率などが落ちていることへの配慮でしょう。
そのため、60歳の方で今回の改正案に不安がある方がいるかもしれませんが、今のところ心配する必要はなさそうですね。
60歳以上の人は、今までと変わらないんだね〜
現役世代と比べると就労しにくいから、そこに配慮されているんだね
有期給付拡大へのケアが検討されている
ここまでの内容だけを確認すると、男性と60歳以上の配偶者以外は、制度が改悪されているのではないかと見えてしまうかもしれません。
今回の改正によって、無期給付と比べて遺族厚生年金の受給期間が少なくなってしまうことから、大きく3点の配慮がされる見込みとなっています。
死亡時分割で将来の配偶者の年金が増える
これまでの制度では、遺族厚生年金の受給権がある方は、無期限で給付を受けることができますが、有期給付の方は5年間給付を受けるだけで、それ以上は何もありません。
今回の改正にともない、有期給付の対象者が増えることから、死亡時分割という仕組みが検討されています。
この死亡時分割は、現行の離婚分割の仕組みを参考に、厚生年金記録を分割して遺された配偶者の年金記録に上乗せされます。
これにより、配偶者の方が将来受け取れる年金が増えることになります。
将来受け取れる年金が増えるのは助かるね
生計を維持していた人が亡くならない場合と比べて、老後の生活が苦しくなるから配慮されたんだろうね
850万円以下の収入要件が撤廃される
これまでは、遺族厚生年金を受給できる要件に、「生計同一要件」と「収入要件」が設けられています。
そのため、これまでの制度では、配偶者の収入が850万円以上の場合には、遺族厚生年金を受給することができませんでした。
今回の改正により収入要件が撤廃され、遺族厚生年金を受給しやすくなります。
これまで収入要件に引っかかっていたために、遺族厚生年金を受給できないことを考慮して、民間生命保険を多めにかけていた方にとっては朗報といえそうです。
要件が減れば遺族厚生年金がもらいやすくなるね
収入要件のせいで遺族厚生年金がもらえず苦労する人がいたから、良い改正案だと思うよ
給付額上乗せの仕組みを創設
これまでの遺族厚生年金は、これまで加入してきた年金記録から算出された年金額※の4分の3に相当する金額を遺族年金として受給することができました。
※厚生年金の加入月数が300か月に満たない場合には、月数を300か月として算出
この遺族厚生年金の給付に加えて、亡くなられた方が受け取るはずだった年金額を上乗せで受給できる仕組みが検討されています。
厚生労働省の資料では、ドイツなどの仕組みを参考にしているとのことであり、数か月間限定での給付となる可能性があります。
外国では、遺族厚生年金に上乗せされる仕組みがあるんだね
配偶者が亡くなってすぐは、生活が一変するだろうから給付の上乗せは助かるね
加算の廃止による男女差の段階的解消
遺族厚生年金には、のこされた妻に配慮した加算金の仕組みがあります。
この仕組みができたころは、中高齢の女性の就労が困難でした。
そのような方たちに配慮して、加算金の仕組みが設けられていました。
ただ、時代が変わり女性の社会進出が増えたことなどを背景に、段階的な加算金の廃止が検討されています。
中高齢寡婦加算金の段階的な廃止
中高齢寡婦加算は、「夫の死亡時に子のいない40歳以上の妻」、「40歳時点で遺族基礎年金の受給権のある子が18歳になった年度の年度末に達したことなどの理由によって、遺族基礎年金年金の給付がなくなってしまった遺族厚生年金を受けている妻」が、65歳になるまで受けることができます。
夫に養われていた妻が、遺族厚生年金だけでは生活をしていくことが難しいため、遺族厚生年金に一定の金額を加算して生活が破たんしないように配慮するものです。
今回の改正案では、女性の社会進出が増え、40歳以上の女性の就労が変わってきたことなどを踏まえ、段階的に新規の中高齢寡婦加算の対象年齢を引き上げ、最終的には廃止の方向で検討がなされています。
加算がなくなってしまうのは厳しいな〜
女性だけが受給できる仕組みだったんだけど、現在の就労状況や男女差の解消の観点から、段階的に廃止されていくようだね
寡婦年金の段階的な廃止
寡婦年金は、国民年金被保険者だった夫が亡くなった際に、一定の要件を満たしている場合に、遺された妻が60歳から65歳でご自身の年金を受け取るまでに支給を受けることができる国民年金の独自制度です。
今後は、受給対象者の年齢が段階的に引き上げられ、最終的に寡婦年金は廃止となる見込みです。
寡婦年金なんて制度があったんだね〜
もともと、60歳から年金をもらう65歳になるまでの期間の国民年金の給付だったんだけど、こちらも段階的に廃止になるようだね
まとめ
✅男女差の解消を目指して遺族厚生年金の改正が検討されている
✅制度が改正される前に遺族厚生年金を受給している方は影響なし
✅30歳以上60歳未満の人の妻の遺族厚生年金を段階的に有期給付へ移行
✅収入要件の廃止や新たな上乗せ給付が検討されている
✅中高齢寡婦加算などが段階的に廃止される今回の遺族厚生年金の改正案は、決定事項ではありません。
制度が改正されたとしても、廃止される部分は数十年の時間をかけて段階的に廃止されていきます。
一部のSNSなどの発信では、遺族年金の有期給付や加算の廃止などによる改悪だけが強調されているものがあります。
今回の改正案では、現在の社会情勢を踏まえた給付の縮小のほかに、新たな給付や要件の見直しが検討されています。
今後も遺族年金制度の改正状況を確認して、必要な備えをしていくようにしましょうね。
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